ねじ

螺子(ねじ)

 二十代半ばの若い夫婦の未来は、今や妻のパート収入にかかっていた。男は、結婚してからこれで五度目の職探しだった。気性の荒い短気な性格は、何処の職場でも馴染みにくかった。学がないことを直接的にも間接的にも批難されるのは精神...

老夫婦

気の毒な老人

 朝起きると、老人の右脚は腐っていた。 誰が見ても、もう使い物にならないのは一目瞭然だった。いつかそういう日が来ることは分かっていた。しかし心の準備が出来ていないうちに突然そうなってみると、それはそれで悲しく辛いことだっ...

壁画の娘~銀座ライオンの恋

「銀座ライオン本店でデートすると、一ヶ月以内に別れる」 新橋に本社のある早生の社内では、最近そんな噂が流れていた。 「ライオンの祟り」だの「7丁目には戦前墓地があった」だの「米兵と日本人ウェイトレスの心中話」だの「二人の...

ムカデ

 男は晩酌をしていた。いつもの時間。いつもの食卓。 妻と娘も同じように座り、もくもくと箸を動かしていた。 特にこれといった会話はなく、テレビから流れてくるアイドル歌手の黄色い声だけが小さな音量で鳴っていた。「あ」と娘は目...

生臭さ

「何の臭いかしら」と妻が言った。私はひと風呂浴びてちょうど食卓についたところだった。「臭わない?」皺の寄った眉間の塹壕を更に深めて、妻は鼻から小さく息を吸った。「そう?」 慢性的な蓄膿体質もあり、鼻の利く方ではなかったの...