夫も私も、いない家

『夫も私も、いない家』

 こんな時間の電話なんて、セールスか互助会の勧誘しかないと思ったけれど、いつまでも鳴り止まないので仕方なく腰を上げる。
 翔の口が胸から離れ、溢れ出る母乳がパンツを濡らす。もうガーゼはびっしょり。翔の睫毛は目やにでくっついていて、口の端から含んだばかりのミルクを唾液と一緒にもどしてる。

「もしもうし」
 耳障りなしゃがれ声。高脂血症のメタボ男。
 電話が鳴った時、私は毛玉だらけのホットパンツに、首が二つも入りそうなよれよれのTシャツを着てミルクをあげていた。声が漏れるほどの大きな溜め息を一つつき、洗濯物の山の中からガーゼを見つけて、翔の口と自分のパンツを拭う。脇の下に生温かい汗がじわりと滲み出るのを感じる。
「この間の話、ちゃんとご主人に話してくれましたあ?」
 こちらの反応になんて耳も貸さず、メタボ男は自分のペースで滔々とがなり続ける。バブル崩壊の原因、土地価格の暴落、低金利、地域の小学校の偏差値ランキング、従業員の給料、そして何故か自身の女性の好みまで。
 馬鹿みたい。彼の目的は明らかに家を売ることじゃない。

 電話は二日前にも一度かかってきていた。私生活を覗かれているのかと思うくらい、彼の電話は母乳を飲ませている時を狙い撃ちする。
 翔を胸元に引き寄せ、股をさする。にょっきり前方に伸びた左右の乳首を口一杯に含みながら、休み休み顎を動かす。勢いがいいのは始めの十秒くらいで、後は休んでいる時間の方が多い。
 こんな飲み方で栄養は足りているのだろうか。
「子供いるんならいずれ2DKじゃ狭くなるし、近くで遊べる公園だって必要でしょ? このマンションには、水遊びのできるプールと芝生の広場があってねぇ」
 瞼の奥に梅干大の鈍痛を感じ、ぎゅっと目を瞑る。遠くで、消防車のサイレンが鳴っている。
 誰かが階段を駆け上がる。より濃密な静寂と役立たずの紙屑を郵便受けに残して、彼は逃げるように遠ざかる。
 ピザの宅配。「赤旗」講読のお勧め。私はどこの宅配ピザの旬のメニューだって言えるし、市議選に立候補する共産党の女性候補を知っている。けれど、そんなこと何の生活の足しにもならない。
 翔がぐずり始めていたので一旦受話器を置き、また胸元へ抱え直す。私は何度も何度も、こういう同じ動作を繰り返す。
 背ける。抱き直す。ぐずる。抱き直す。母乳をあげている時もおしめを替えている時も腕の中で眠っている時も、彼の熱と汗をいつも体のどこかに感じている。
 あり合わせの材料で作った木工細工のような手足をばたばたさせて、翔は不平不満を訴える。暑くてたまらないのだろう。この気温と湿度の中で冷房なしに過ごすことは、赤ん坊にとって不憫なことは分かっている。背中のあせもが心配になり、倒壊した洗濯物の中から新しい肌着を引っ張り出す。このペースだと、タンスに仕舞う必要もなさそう。
「奥さん、聞いてるの? ちょっと、もしもうし?」
 受話器を耳に当てなくても、十分聞こえてくる。「もしもうし」の「う」の音が特に私をいらつかせる。そんなに大声を出さないで、と私は心の中で怒鳴る。
「一度でいいから、モデルルームだけでも見てよ。絶対気に入るから。家賃なんて金をどぶに捨ててるもんだよ。ねえ奥さん、奥さんさあ、ちゃんとご主人に話してよ。また、電話すっからね」
 電話はぶつりと一方的に切れる。翔は急にぐずるのを止める。息を押し殺して辺りの様子を伺っているようだ。何事もなかったかのように部屋はしんと静まり返る。この種の電話の後味の悪さは何度経験しても慣れるものじゃない。
 受話器を放り投げ、翔の髪を撫でつけてから、うんざりするほど退屈ないつもの作業に取りかかる。

   *

 夜になっても、卵白のような空気が部屋の隅々に滞留している。
 二日前にエアコンが故障したお陰で一日に何度も着替えなければならず、洗濯ハンガーには翔の肌着と私のシャツばかりが並ぶ。
 窓を全部開けたって風なんて吹いてないし、家の前にたむろする不登校児たちのバイクの轟音に悩まされるだけ。
 だから、掃除も炊事も余計に体力を消耗する。一仕事終える度に全身に汗が噴く。翔はよく泣き、執拗に私を求める。泣き声を聞くだけで、条件反射のように体が熱くなる。気掛かりで、シャワーもゆっくり浴びられない。もどした母乳を喉に詰まらせて窒息死することもあるなんて育児書に書いてあったから。
 結婚当時、背中まであった髪の毛も今は肩まで切り落としてゴムで止めるだけ。いじる余裕がないというより、長いと授乳の邪魔になってしょうがない。化粧道具も鏡台の引出しに仕舞いっぱなし。確かファンデーションが終わりかけてたけれど、今すぐ買わなくても全く不自由ない。
 翔が生まれてからこの三カ月、毎日が戦争だ。従来の家事に加え、彼の発作的な要求に振り回されて。
 翔はやたらに泣く。赤ん坊は泣くのが仕事っていうけれど、他の子もこんなに泣くのだろうか。起きてる時間の八割は泣いてる気がする。どこにそんなエネルギーがあるのかと思うくらい。眠いくらいで泣かないで、と言いたい。眠いのなら、どんどん眠ればいいじゃない。
 首と背中に広がる、醜いあせも。
 それは私の神経を更に磨耗させる。着替えの度に洗浄綿で汗を拭き軟膏を塗っているけれど、一向に良くならない。
「じきに治ります」と近所の皮膚科は言った。「アトピー性のものではありません。ただのあせもです。夏が過ぎれば自然に消えますよ」
 こちらがこんなに心配しているのに、ただの、って何? あせもなら、なぜ薬が全然効かないの? 
 免許持ってないから他の医者にはいけない。世の中全てのものに馬鹿にされてるような感じ。メタボ男といい、ピザの宅配といい、エアコンといい、皮膚科といい、それから、夫や翔にさえも。

   *

 私には結婚して三年になる夫がいる。夫の帰りはここのところ遅く、日が替わることもしばしばある。現在失業中で、微々たる金額だけれど失業保険をもらっている。オフィス用の大型加湿器を売る会社だったけれど、「取り込み詐欺」というものに遭ったらしく二千万円の手形が落とせずに倒産した。
 職を失くしてから、夫は毎朝九時に起床し、髭を剃り、食パンを一切れ食べてから「ショクアン」と言って出掛けていく。それきり夜まで戻らない。帰ってきたところで、大抵酒の匂いがする。お金もないのに、一体どこで飲み歩いているのか私には分からない。
 夫は子供を嫌っている。私には分かる。翔が生まれてから彼が何回抱いたか数えられる。女の子じゃなかったのがショックだったのか、自分の子供かどうか疑うことさえ言う。
 その日だって、もう十時を過ぎていて、ちょうど翔を寝かしつけているところだった。
「連れがいる。腹減ってんだ」
 二人はかなり酔っていた。煙草とアルコールの匂いが玄関の隙間からむっと漂う。連れと呼ばれた男は、「悪いよ」と言って、ドアの向こうで一応恐縮している。遠慮するなよ、友達だろう、と夫は男の腕を引く。
 こんな時間に、誰も家には上げたくない。私、酷い格好してたし。慌ててブラをして、短パンをジーンズに履き替え、髪をブラッシングする。こんなの、生まれたばかりの赤ん坊のいる家庭の姿じゃない。
「お邪魔します。夜分すいません、奥さん」と男は頭を垂れ、靴を脱ぐ。
 奥さん。奥さん。奥さん。
 頭の中で念仏のように繰り返す。浦島太郎みたいに、一気に老けこんだ感じ。汗をたっぷり吸い込んだ二組の重い運動靴を揃える。泣き出したいくらい、悲しい気分。
 二人は「酔い醒まし」と言ってビールを飲む。夫はエアコンの故障を詫びながら、凍ったフェイスタオルを彼に渡す。
 私はチーズとナッツを皿に盛り、チャーハンを作る。気の抜けた褒め言葉を並べながら、何年もの間満足に食事をとったことのない孤児のように彼らはぺろりと平らげる。
 こういう奥さんを選ぶべきだよな、と友人は真顔で言う。夫は少し微笑んで見せたきり何も答えない。私は野菜スープの仕上げにとりかかる。人参と椎茸を入れ忘れたことに気付いたけれど、構わず作り続ける。
 帰り際、「子供、見るか? めちゃくちゃ可愛いぜ」と夫は言う。やめてよ、好きでもないくせに。それにせっかく今寝付いたばかり。
 私を無視して、夫は翔の眠っている和室へ向かう。洗い物の手を休め、床の軋む音、二人のささやき声、翔の反応、あらゆる物音に私は耳を澄ませる。
 案の定、泣き声。
 そして、男たちの哄笑。時計をちらと見、下の住人を気にかける。脳の皺一つ一つを爪でなぞるように、泣き声と笑い声は鋭く私を刺す。翔だけは、翔だけは、起こしてほしくなかった。

 夫がシャワーを浴びている間、私は寝入りを襲われて機嫌の悪い翔を着替えさせ、慰めの母乳を片方だけ飲ませる。幸い、翔は直ぐに力尽きて眠りに落ちる。ぐったりと頭を垂れ、両目尻から涙を流している。ガーゼで目を拭い、細心の注意を払って再び布団に寝かせる。

 寝息を確認してからそっと部屋を出る。髪の生え際に溶けた千歳飴みたいな汗をかいている。髪を束ね、シャツを取り替える。そして冷めた残りの野菜スープを少し飲む。
 シャワーから上がるとすぐに、夫は冷蔵庫を開けてビールを取り出す。
「いい加減にしてよ」と私は我慢できずに言う。膝ががくがくと震えている。夫の目に激しい何かが宿り、そしてすぐに消え去る。ちっ、と舌打ちをして、髪を叩くように拭きながら窓の外を睨みつける。貧乏ゆすりをし、煙草を何度も口に運ぶ。
 どうかしてる、両こぶしに、自然に力が入る。
「友達を連れてきてはいけないとかそういうことじゃないの。ただ、今私たちには生まれたばかりの赤ん坊がいるのよ?」
「金だろ」と夫。失業保険はじきに切れる、養育費もかかる、家賃に食費に水道光熱費、もう家には金がない、早く仕事見つけろ、毎晩飲み歩くな。
 私は小さく首を振る。「確かにお金もあるけれど、それだけじゃない。ねえ、あなた分かってない」
「何を分かってないんだよ。お前だって」
「お前だって、何?」
 そう言ったきり、夫は私から目を逸らして何も答えない。お前だって、なんて言われること、何もない。夫に人のこと責める資格なんてない。私はぜひその続きが聞きたいけれど、夫は諦めたように窓の外を見ているだけ。上り坂に沿って建設された分譲住宅の玄関の明かりが、登山家たちの松明のように秩序よく並んでいる。

 それぞれの家庭。それぞれの幸福。
 網戸には無数の羽虫が穴を埋めるように張り付いている。 みんなこの不景気のせいだ、と夫は独り言のように言う。
 私たちがうまくいかないのは、不景気のせいなの?

 夫の手。指が短く節くれだち、甲には青々とした血管が浮き出している。二の腕と胸板は厚い筋肉で覆われ体毛が直線的に繁る。そして油とヤニの染み込んだ太い指先。この石のような腕に、私は何度も抱かれてきたのだ。
 少なくとも、ついこの間まではうまくいっていた。掃除機を毎日かけ、洗濯もまめにし、食事もしっかりと作った。中古だけれど、程度の良い自動車だって手に入れた。週末になると恋人気分でウインドショッピングや映画を見に街に繰り出した。午前二時にデニーズでプリン・ア・ラ・モードを食べることさえできたのに。
 やがて、会社が倒産し、子供が産まれた。離職票を提出し、児童手当を請求した。失業保険は来月でその支給が終わり、児童手当はおむつを数回買えば消えてしまう程度の金額だった。
 私にはこの際話しておきたいことが山ほどあった。実家が祖父の介護でもめていることや、エアコンの修理に時間とお金のかかること、昼間の嫌なセールスの電話、今後の私たちの生活。
 しかしその願いも、もう一人の共同生活者によってたちまち打ち砕かれる。
「泣いてるぞ」
 夫は和室を顎で差す。猫のようなか細い泣き声が私の温もりを求めている。「明日にしよう」

 夫は居間のマットに横になってテレビを点ける。翔は瞼を腫らし手を震わせている。背中全体が熱く、首の皺には涙と汗の入り混じった水の溜まりができている。
 ガーゼをお湯で濡らし肌着を脱がせて全身をくまなく拭う。その間、ずっと翔は泣き続けている。薬を塗っている途中で尻に新たなあせもができていることに気付く。今日限りでこの薬を使うのは止めよう。
 うまくいかない理由って、何?
 乳首を咥えさせていると恐ろしいほどの睡魔に襲われる。一通り乳を与えて翔が眠り込んだのを確認してから、布団を敷き寄り添うように体を横たえる。二時間後、授乳かおしめ替えでまた起こされるということはこれっぽっちも考えずに、私は眠ることに集中する。

   *

 次の日、夫はいつも通りに起きてシャワーを浴びる。寝不足からくる体の震えと心臓の昂りを感じながら、私はトーストと卵焼きとオレンジジュースを用意する。夫はトーストには目もくれずジュースばかり飲んでいる。
 そして新聞の社会面にさっと目を通したあと、つまらなそうにテーブルの上にそれを放り投げ、昨夜の吸いかけの煙草に火を点ける。
 和室の翔は大人しく真正面を向いて眠っている。顔の黄疸がいくらか薄らいだように見えるが、きっとそれは光による錯覚なんだと思う。
 時計を見る。
 随分長く眠っているような気がする。そっと近づき鼻先に耳を寄せる。すう、すう、と寝息はかすかに聞こえる。
 次に手を軽く握り温もりを確かめる。しっとりとした汗。大人の汗と違って、それは化粧水のようにさらりとしている。もう一度寝息を確認してから私は和室を出る。
 夫が行き先を告げずに出ていった後でも、翔はなかなか起きない。ひと眠りしたかったが胸が張っていたので搾乳する。のっぺりとした特徴のない一日がまた始まった、と私は思う。
 母乳、泣く、おしめとあせもの薬、洗濯、自分の食事(気力があれば)、泣く、着替えと母乳、泣く、仮眠、泣く、母乳、風呂へ入れる、泣く、母乳、おしめとあせもの薬、泣く、着替え、夫が帰宅したりしなかったり、泣く、泣く、泣く 。
 そこには自分の嗜好や思惑を差し挟む余地なんて少しもない。条件反射的に日は昇り、やがて色褪せていくだけ。

   *

 翔が熱を出したのは日曜日のことだった。翔の背中は火のついたように熱かった。視線も不確かでぐったりとし、顔全体が赤く、鼻水も少し出ている。体温を計ると三十八度八分あった。
 私はどうしていいか分からなかった。生後三ヶ月で風邪なんてひく? 育児書には、半年間は免疫があるって書いてあったのに。
 その日はたまたま夫がいたけれど、休日診てもらえる病院を探し当てるのに時間がかかった。分厚い電話帳には「休日の救急診療担当医」欄などない。市の広報、チラシと一緒に捨ててしまったみたい。
「どこに聞いたって分かるわよ」
 私は夫の不手際を責めた。そのことでちょっとした口論になった。お互い感情的になっていた。私の腕に翔はますます重く、熱く感じられた。電話が鳴っていたけれど、どちらも取ろうとしなかった。私は俯き、泣きながら翔を撫でていた。夫は煙草に火を点け空ふかしをした。それでも電話は鳴り止まなかった。
「ふざけんなよ」
 吐き捨てるように夫は言い、受話器を放る。煙草の灰の塊が音もなく床に落ちる。「マンションどころじゃねえよ」
 奴だ。髪の薄くなった五十男。腹が妊婦のように迫り出し腕にはキャタピラのような金のブレスレット。昼食後の爪楊枝を口にくわえながらソファに凭れ、相手の家の事情などお構いなしに気の赴くままボタンを押す。まるで不幸を売ることが目的のように。
 こんな男、今すぐぽっくり死んでしまえばいい。心筋梗塞でも交通事故でも死ねばいいんだ。
 生まれて初めて、本気で人の死を願った瞬間。
 翔は結局風邪をひいたらしく、処方された飲み薬を少し与えるとけろりと回復した。三ヶ月だって風邪をひくんですよ、と医者は言った。
「外から菌を持ってきやすいので注意してください。夏風邪が流行ってますから」
 夫は眠るように頷いた。その顔には何の起伏も色彩もなく、どこか古ぼけていた。

   *

 朝、賑やかな雨音で目が覚める。唾液のような気泡を含んだ雨は、自転車置場の屋根を容赦なく打ちつけ、溝を伝っていくつもの滝を作っている。空は雑巾を敷きつめたように暗く重く、そのまま今日一日の幕が引かれてしまいそうだ。
 翔が熱を出して以来、夫はさらに不在がちになった。私は洗濯物を家の中に干し、翔が眠っているのを確認してから、お湯を沸かして久しぶりにインスタントコーヒーを入れる。
 雨のお陰で殺人的な外の熱も幾分和らぎ、私の体もちょっとだけ軽い。アルバムを書棚から取り出し、翔が産まれた時の写真を何となく眺める。
 臍の緒がまだ繋がった状態で医師に取り上げられている写真、産湯に浸かった後の色白な体、初めて病室に移された時のものなど。
 そんな写真を見ながら、私は出産前後のことを思い出す。

 病院へ到着すると医師は待っていたかのように私を診察台に寝かせ、脚を開き、子宮を調べた。促進剤投与。胎盤が弱ってので今日中に出してしまいましょう。
 次第に強くなる陣痛の波。間隔が狭まり、立っているのが苦痛になる。子宮口の大きさを計るために時々分娩室に入る。しかし産むためにはまだ不十分。進行が遅れている。痛みは容赦なく襲う。何かに掴まっていないと意識を保てない。
 それからどれほどの時間が経過したのか、自分がどんな状態だったのか、全く記憶にない。「おなか切って早く出して」と何度も口にしたのよ、と後日看護婦から聞く。
 そして、いよいよ出産。
 翔の頭が下へ下へ降りていく。全身の筋肉がこわばる。恐ろしいほどの痛みと圧迫感が下半身を襲う。頭が朦朧とし力が次第に抜けていく。
 もう少しよ、頑張って、力んで、もっと、頭見えてる、最後よ、休んじゃだめ。
 医師はハサミを取り上げ私の体に切れ込みを入れる。私を励ます看護婦の数が増える。視界はどんどん狭まっていく。とにかく止めにして眠りたい。これ以上は無理、お願い、もう終わりにして。
 内臓を引き抜かれるような感覚と同時に、熱の塊がざあっと下腹を駆け抜ける。大腿の向こうのぼんやりとした空間に、小さな小さな人の形をした生き物が全身を震わせながらゴム手袋をはめた医師の両手に抱かれてる。赤ん坊のおなかと私の下腹とが透き通るほど白い一本の太い紐で繋がってる。
 一年近くも私を苦しめ続けた犯人。
 小さな安堵、大きな不安。そして、泣き声。
 「一、二、三、四、五」
 両手両足の指を医師は丹念に確かめる。
 「オーケー。回復室でゆっくり休みなさい、もう、いきまなくていいから。好きなだけ、眠っていいよ」

 私はじっと写真を見つめる。瞼が熱くなるのを感じ、アルバムに写真を仕舞いカップに湯を注ぐ。
 サイドボードに飾ってある結婚式のフォトスタンド。二人でキャンドルサービスをしてる時のもの。グレーのタキシード、胸元の露出した上品なアイボリーのウェディング。炎が揺れ二人とも楽しそうに笑っている。
 夫、そして、私。
 翔はまだ眠ってる。一人で馬鹿みたいに涙を流してる。私は着替えとおむつの準備をする。もうすぐ、目が覚めるはずだから。

   *

 午後になると雨は上がり、灼熱の陽射しが地表に降り注ぐ。アスファルトから立ちのぼる生臭い雨の粒子が、行き先を見失った放浪者のように宙を彷徨う。
 手すりに凭れ、考える。それは断片的でまとまりを欠いていたけれど、それぞれが重要で緊急の解決を要するものばかり。
 油汗をかいているのが分かる。髪は湿り、胸元にも涎を垂らしたような大きな汗の染みが、そこだけグレーのシャツを濃く染める。喉がからからに渇き、苦い唾液を飲み込む。
 開け放たれた玄関の奥の奥で、翔の泣き声。今、眠ったばかりなのに。
 散発的な声は、次第にその間隔を縮め、たちまち規則性と抑揚を持った一連のプロテストに。左胸の乳首がちくちくと疼く。
 理不尽な翔の要求に、私はどうしても納得いかない。翔も依怙地に泣き続ける。町中に響き渡るくらいの大きな声で。ミッフィーの表札の輪郭が周囲に溶け出しモザイクのように揺らぐ。シャツの袖で両目を拭い、呼吸を整えてから、私はいよいよ諦めて玄関の扉を閉める。翔は瞳一杯に涙を溜めてぐずっている。

 死にたいくらい、理不尽。

 乳房にはガラスを撃ち抜いた弾痕のような青銅色の血管。左の乳首の下には、猫の引っ掻き傷のような三筋の皮膚割れ。
 落ちてるガーゼで翔の口から溢れる涎を吸い取る。湯たんぽを抱いてるみたいに熱い。腕にぷつぷつとした吹き出物のような汗が滲み出る。水のシャワーを浴びたい、と私は思う。心置きなく、体を芯から冷やしたかった。

 夫が帰宅したのは、次の日の朝。
 玄関の鍵を乱暴に開ける音で私は目が覚める。でも直ぐには起きないで、布団にもぐり寝たふりをして様子を伺う。
 夫はシャワーを浴び、歯を磨き、トイレで数回嘔吐してから、ここまで聞こえるくらいの呻き声と一緒に洋室のソファに寝そべる。それを境に、物音はぱたりと止む。
 私は耐えがたい喉の渇きを覚え仕方なく布団を出る。寝汗を冷たいタオルで拭い、シャツを交換する。
 洗濯かごに掛けられた夫のポロシャツの肩が汚れている。明かりをつけてその汚れを確認し、匂いを嗅ぐ。濃い目のファンデーション。そして、香水の匂い。
 ポロシャツを丸めて洗濯槽へ放り込み、いつもより余計に洗剤を入れてスイッチを押す。
 そして、生温かい水道の水で顔を洗ってから、死人みたいに横たわっている夫の顔を眺める。血の気が失せて、髭が菌糸のように伸びている。生乾きの髪半分ずつ開いた目と口。止まってしまうんじゃないかと思うほどの深いいびき。
 頬に軽く手を触れてみる。反応はない。掌に薄紙一枚分の温もり。けれど、それは私と夫、どちらの熱か分からない。タオルケットを足元に掛け、窓を半分閉める。
 それから自分の布団に身を横たえ、腕を目に当てて眠くなるのを待つ。様々な想念や昼間の残像が浮かんでは消え、幾度も寝返りを打つ。
 夫の肩に頬を寄せる女の顔。
 掛け時計のこつこつという音が部屋中に増幅されて私の体に反響する。

 台所の物音で目を覚ました時、時計は既に正午を回っていた。翔は肌着の袖を齧りながら、一人の世界で遊んでいる。
 抱き上げると背中は汗びっしょり。上着とおしめを脱がせ新しいものに交換し、乳首を咥えさせる。
 翔は二、三度吸い込んだだけで口の動きを止める。それは何度繰り返しても同じ。私は仕方なく赤ん坊を布団に横たえ、腹にタオルを巻き襖を開ける。
 夫はダイニングでインスタントラーメンを食べている。私は無視して部屋の中に洗濯物を干す。テレビはお決まりのバラエティー番組。瞼の重みから顔の腫れがかなり酷いことを確信する。
「うちには、いくらの金がある?」と突然夫が聞く。「いい話があるんだ」
 私は手を休めて夫の顔を見る。血色はさっきより良くなっているけれど、髭の菌糸はさらに伸びている。良質のものではない胸騒ぎを覚える。
「五〇万くらいあるよな?」
「五〇万!」私は呆れる。「そんなにあるわけないじゃない」
「定期は?」
「とっくに解約したわ」
「どうして」
「どうして?」
 私はうまく答えることができない。結婚と出産、それに日々の生活でどれほどお金がかかると思ってるんだろう。
 夫は額と胸から吹き出る汗をタオルで拭う。室内の調度品はまるで二流劇団の舞台セットのように、硬さと重量感を失っていた。
「きちんと話がしたい。このままでは駄目になってしまう、私たち」
 夫は何も答えず、テレビを見ている。途切れなく流れる客席の笑い声はこの暑さ以上に私を苛立たせる。ねえ、テレビなんて消して。
 夫は舌打ちをし、両手で頭を掻く。リモコンがなかなか見つからないので、だるそうに主電源を切る。
「そんなに子供、嫌い?」
「好きだよ」と無表情に夫は言う。
「嘘つき」
 そして、夫は黙る。雲行きが悪くなるとすぐに黙る。昔からそう。こんなことなら子供なんて産まなかった方がよかった。産まなければ、少なくとも「子供」に関しての悩みはなかった。
 母乳も、おしめも、あせもも、病院も、寝不足も、乳首の痛みも、ゼロ。
 夫は新しい煙草に火を点ける。ライターを扱う手元が小刻みに震えているのが分かる。それは動揺しているのか、アルコールが切れてるからなのか。胃に差し込むような痛み。私は立っているのがやっと。
 お互い、墨のようなブラウン管をぼんやり見つめ続ける。息が詰まる。私はあえてお金が必要な理由を聞かない。どうせろくな話じゃない。金のない人間に向けられる「いい話」なんてありっこない。きっと欲深い悪友との共同経営だの、ネズミ講みたいな話に決まってる。ポロシャツの女にはめられてるのかもしれない。
 何度も煙草を口に運んでは、煙を出し惜しむようにゆっくりと吐く。夫は何かを思案している。その中身を表情から探ろうとしたけれど無理だった。

「子供が産まれて失業してから変わった、あなた」
 私はできるだけ感情を抑えて、そう言う。ポロシャツの件については触れないように注意を払う。それを話せば、二人の間の何かが決定的に破壊されそうで怖かったから。「自棄にならないで」
「自棄になんかなってねえよ」
 ミニーマウスが笑うゴミ箱へ向けて、握り潰した煙草の空き箱を放つ。箱は縁に弾かれて床に転がる。ミニーは二人が結婚した当初から、ずっとそこで笑みを讃えている。
「私は普通に生活したいだけ。普通の夫婦みたいに」
 母乳が染み付いたガーゼで目頭を押さえ鼻を啜る。なぜか、翔の笑顔ばかりが鮮明に浮かぶ。頭の中の翔は気持ち良さそうに私の腕のなかで眠り続けている。
「家に一人でいるとね」
 奥で本当に翔が泣いたような気がしたけれど、私は気にせず話し続ける。「頭がどうにかなってしまいそうなの」
 私は床にしゃがみこむ。やっぱり、翔は泣いている。三十年の歳月が忽ち過ぎ去ったような気がする。
 浦島太郎。
 食器棚に映る自分の髪。一応、色素はまだ残っているみたい。当たり前なことに、私は心底安堵する。
「沢山寝たから、おなかが空いているのよ」
 そう言って、私はなけなしの気力を振り絞りながら、新しいガーゼと紙おむつ、お尻拭き、母乳パッドを手に翔のいる部屋に向かう。

 おしめ替え。
 きつく閉めすぎないように、中央に指を二本入れ隙間を確認する。ガーゼで首と脇の下を中心に拭い、湿疹の出ている部分にはアンダーム軟膏。でも薬を使いはじめて三日が経っているけれど、症状は変わらない。一度ひいたあせもがまた以前の状態にもどってる。食後のコーヒーを飲むのと同様に、習慣として塗っているだけ。
 肌に配慮するため新しい服を裏返しにして着せ、座布団に横たえる。翔は両手をばたばたと動かし、時に手の甲をしゃぶる。
 顔についた睫毛を取り払い、腹におくるみ。それから私は彼の顔をじっと見つめる。いまだにどちらに似ているのか分からない。夫が疑う理由も分からなくはない。
 そんな風に、目の前の育児と家事と夫の世話を留保なく片付けながら、二十八歳のカレンダーを塗り潰す。この先、いつまで今の状況が続くのかと思うと、気を失ってしまうくらい暗澹とした気持ちになる。
 夫は無職。失業保険だけれど、それでもお金がもらえる。私、無報酬。家事や育児では給料をもらえない。絶望的に不条理。
 昔、何かの本で読んだのを思い出す。
 狂人の作り方。A地点の荷物をB地点に運ばせる。そしてB地点の荷物を再びA地点に戻させる。それだけ。それをいつまでも繰り返す。来る日も来る日も三度の食事とわずかな睡眠を除いて、あとの時間を全てその単純労働に費やすと、間もなく神経が参ってくる。報酬もなく達成感もなく終わりもない仕事。
 今の私の感覚、かなりそれに近い。

   *

 いつかの午後。
 最近、曜日の感覚もない。新聞もテレビも見ていない。とにかく、いつも通り暑くて、西側の窓を開けたらそこに太陽があったので、きっと夏の日の午後なんだと思う。
 頭が冴えない。つむじの後ろが時々疼く。私は使用期限切れのバファリンを口に放り込む。気にしない。期限過ぎてた方が、かえって胃に優しいかもしれない。水をコップ一杯に注いで全部飲んだら、途端に痛みが引いていく。そんなにすぐに効くだろうか。結局、頭痛には沢山の水を飲むことが一番の薬ということが分かる。
 痛みが消えると、叶わない夢、熟睡願望。誰にも邪魔されずに、冷たいシャワーを浴びてから、冷房のきいた部屋で、二十時間くらいこんこんと眠りたい。夢をも見ない深い眠り。
 鏡で自分の顔を見る。酷い顔。目は窪み、カウンターパンチを受けたボクサーみたいに隈が両目を縁取る。真夏なのに、顔、真っ白。絡み合う針金のような髪。薄い眉毛にコンプレックスの一重瞼。
 顔全体の筋肉を緩める。緊張感のない顔ってすごくだらしがなくて、間抜け。元が悪いせいもあるけれど。
 
 シャツとホットパンツを脱ぎ、下着も脱いで裸になる。不自然な胸の張り。くすんだざくろの実が二つ。母乳を終えれば瞬く間に萎んでしまうのだろう。
 そして前よりもっと小さくなって、垂れて皺くちゃになる。ストレス太りしておなかが出てきて、腰回りや背中にもたくさんお肉がついて。想像するだけで恐ろしい。それだけは絶対に勘弁。死んだほうがマシ。
 もう一度姿勢を正して、体に皮膚割れが出ていないか確かめ、意味もなく両手で陰毛を引っぱる。細くて縮れた陰毛がまとまって指の間に抜け落ちる。私は抜けた毛の数を数えた後、ゴミ箱にぱらぱら捨てる。
 レースのカーテンをするのを忘れていて、通りの坂の上から、部屋の中が丸見えになっていることに気付く。向こうから、制服を着た高校生くらいの男の子が二人、笑い合いながら坂を下ってくる。私はカーテンを閉めないで、裸のまま高校生を見つめる。
 でも、彼らはまるでアパートすら存在していないかのように、アスファルトと相手の顔を交互に見ながら、あっという間に窓枠から消えていく。カーテンを閉めて、浴槽のシャワーをひねる。少しくらい、見てくれてもいいのに。
 私、どうかしてる。自分でもよく分からない。馬鹿みたい。
 気を鎮めるために、しばらくシャワーの水を浴び続ける。瞼の裏の残像を頭一杯に思い浮かべて。もし、あの時彼らの視線が自分に向けられていたら、私はどういう反応をしたのだろう。考えれば考えるほど、蛇口を閉めることができなかった。

 翔は目を覚ましている。大人しく、座布団に転がっている。どうにも緊張から解放されない。タオルで髪を拭きながら、氷を嘗める。
 それから、床に転がっている携帯電話を開き、今月の利用状況を確認する。翔が産まれて以来ほとんど使うことがないから、最近は基本料金で収まっている。
 メールは誰からもこない。自分から打つことがないし、打つ相手もいない。料金プランの心配なんて全く必要ない。
 無意識のうちに、以前に使っていたフリーメールに繋いでいる。サイトのトップ画面。ユーザーIDとパスを入力。認証エラー。
 あれ、パス、何だっけ? リトライ。電話番号。駄目。自分の生年月日。駄目。自動車のナンバープレート。画面が切り替わり、メールの受信画面へ。やれやれ。ちょっと繋がないと、すぐに忘れちゃう。
 受信、九通。それでもタイトルを見ると、アダルトグッズや消費者ローンのセールスばかりで返信が必要なものはなさそう。一件ずつ削除していくなかに、一つだけ気になるメールを見つける。

出会いの泉~男性登録者からのメール
メールの送信日時/2010/6/9 午後8時3分
お相手のお名前/達也
貴女へのメッセージ/
はるなさんへ
十八歳の高校生です。毎日刺激がなくてつまりません。年下でもよろしければ、連絡ください。

 出会い系。メール受信を知らせる通知。
 前に、興味半分にいくつかのサイトに登録したことはあったけれど、その時はメールの返信が凄すぎて(まともに返事を書けるような量じゃない)すぐに解除した。もちろんちゃんとした返信もあったけれど、私を誹謗中傷する人、汚い言葉ばかりを書き連ねる人、性器の写真を送りつけてくる人、とにかく不愉快な思いをして懲りたのを覚えている。
 まだ、削除してないメール、あったんだ。
 私はそのメールだけを残して後を削除し、改めて内容を確認する。6月9日。もう2ヶ月以上も前。今送ったら、返事くるのかな。
 夫には女がいる。私は口も利けない共同生活者にこき使われ、メタボ男に怯え、エアコンと酸素の欠乏した密閉容器の中で一日三リットルの汗をかきながら、食べるに食べられず、寝るに寝られず、八方ふさがりの中で必死に格闘してる。ちょっとくらい息抜きしたって、バチなんてあたりっこないよね?
 「達也」という彼に返事を送る。たいした内容じゃない。メールありがとう、程度のこと。返事は期待しない。向こうだって、2ヶ月前に送ったメールなんて覚えているわけないだろうし。
 送信後、間もなくメールの受信を知らせるメロディが鳴る。
「ちゃんと覚えてますよ。サイトに登録して初めてメッセージを送った人だから。高校生だけど、いいですか?」
 返事がきたことに少し驚く。しかも自分のことを覚えているだなんて。初めて、という部分を何度も読み返す。嘘でもこういう言い方って嬉しい。高校生かあ。
 高校生と聞いて、さっき窓の外で見た制服姿の男の子たちが頭に浮かぶ。達也も、あんな感じなのかな。そして、大きな手の中で、小さな文字を不器用に打つ彼の姿を想像する。

 翔は指しゃぶりを始めている。そろそろ母乳をあげる時間だ。すぐに返信したい気持ちを抑え、翔の様子を伺う。珍しく、泣き始めない。今日は随分と時間をくれる。シャワーも浴びれたし。でも油断はしない。ツケは必ずやってくる。いつもそうして帳尻が合う。樹の上のりんごを手にした瞬間、梯子ははずされるのだ。
 翔のこと、時に悪魔のように思える時がある。当たり前の顔をして、私らしさを引き剥がし、何の夢も希望もない現実という檻の中に封じ込める。
 屈辱。
 こんな小さな生き物に大の大人が振り回されている。自分ながら情けない。だからといって、逃げることはできない。助けてくれる人もいない。実家は人の死ばかりを願ってそれでころではない。夫も全くあてにならない。
 自分が選んだ男。自業自得。実は、みんな私が悪い。
「今、忙しいですか? 僕は暇だからいつでもメールください。はるなさん、OLって、どんな仕事してるんですか?」
 翔を抱きかかえながら、私はボタンを押す。自分がどんなメッセージを登録したのか思い出せない。OLなんだ。きっと年齢も五つくらいさばを読んでいるはず。
 不意に、乳首を強く噛まれ身を反らす。吸い付く力も、噛む力も、こんな小さい口にどうしてそれほどの力があるのか不思議。赤く擦り切れた乳首に落とされる、針の撃鉄。
 もっと飲んでくれないと、また地獄の搾乳が待っている。乳腺炎になんてなったら冗談では済まない。快適な食事を中断されたことが気に入らないのか、翔は何度胸を押し付けても吸おうとしない。笑うでもなく、怒るでもなく、私より親指を大切そうに咥えている。わかった、もう、いい。
 母乳止められるならどんなに楽だろう。哺乳瓶を使うことも考えたことがある。でも、あの先っぽのゴムの乳首を全く受け付けてくれなかった。匂いが嫌なのか、固すぎるのかはよく分からないけれど、その嫌がりようときたらただ事ではなく、一日機嫌が悪かったことを覚えている。哺乳瓶はその一度きりで懲りた。
「OLじゃなくて、ただの主婦なんです。二十八歳で産まれたばかりの子供もいます。嘘をついてごめんなさい。嫌いになったでしょ?」
 すかさず、彼から返信。
「そんなことないです・・年上の人にすごく憧れます。はるなさんさえよければ、仲良くしてください」
 床の上で、翔はぐずり始めている。きっとおむつだろう。でも、そろそろ切れる頃。買い物に行くのだって容易じゃない。歩いて三十分もかかる量販店まで行かなくちゃならない。そこは、近所で買うより三百円も安い。一日履きっぱなしでも交換しなくていいおむつ、誰か発明してくれないかな。
「子供いるのですぐに返事できない時もあると思うけれど、私でよければ」
「ありがとう。ナンかすっごく嬉しいです。忙しそうだから、またメルします。達也、忘れないでくださいよ!」
「了解。またね」
「またね。ちゅ」
 胸がときめいている。メールを受信するたびに、携帯を持つ手が震える。こんな感覚、いつ以来だろう。
 もう一度、彼から受信したメールを順番に読み返す。風が吹けば消えてしまうほどの、ごく普通の言葉だけれど、今の私には、自分に話しかけてきてくれる人がいるという事実が何よりも嬉しい。一人の女として、コミュニケーションをとりたいと望む人がいることを。それがたとえ、見ず知らずの高校生であっても。

   *

 夜、なかなか寝つけない。夫は帰ってこない。良からぬ考えが頭をよぎっては直ぐに否定する作業を繰り返す。認めてしまうのは簡単だけれど、今の課題をこなしていくことで精一杯。これ以上新たな問題を抱え込んだら、自分の頭も体もその許容量を超えてばらばらに壊れてしまう。
 喉がからからに乾く。この頃買い出しにも出てないので、冷蔵庫の中にはろくなものがない。仕方なく、水道水に氷を入れて飲む。シャツを取り替え、冷凍したフェイスタオルを水に晒し、顔を拭く。
 それからダイニングの床に横たわる。カーテンレールの洗濯ばさみが、まるで天日干しにされた雀蜂の死骸のよう。
 目を背け、顔を覆う。それからシャツを半分たくし上げ、腹の中心から脇腹に至るまでの肉を思い切り掴む。指の間から鈍感な色白の脂肪が遠慮もなくはみ出てる。ろくなもの食べてないのに、栄養はみんな子供に吸い取られてるはずなのに、どうしてこんなに肉が付くのだろう。
「でぶ」と口に出して言ってみる。私の体、きっとどこか壊れている。
翔の泣き声が鼓膜を貫く。追い討ち。しばらく聞こえないふり。このままここで眠ってしまいたい。
しかし、翔はいつまでも泣き続ける。ゆっくり時間をかけて上半身を起こし、一度大きく頭を振ってから、諦めて寝室に向かう。鉄の冠を被せられているように頭が重い。
 翔は肌着の縫い合わせを必死にしゃぶっている。求めているものは明らかだ。けれども行動する気になれない。網戸の外から覗く黒い山の稜線をぼんやり目で辿る。その切れ端の丁度真上に、ハロゲンライトのような白い月が宇宙にぽっかり空いた穴のように輝く。
 もう、うるさい!
 とっさに、タオルケットをぐるぐるまるめて翔の顔に放り投げ、その上から座布団を被せる。声がぷつりと消え、部屋が嘘のように静まり返る。
 夜って、本当はこんなに静かなものなんだ。

 神経痛のように、頭のいろんな場所が心臓の鼓動に合わせてちくちく痛む。バファリン、この前で終わってしまった。掌で頭の両端を力一杯押してみる。少しの間、痛みを忘れられる。目を閉じて、私は何度もそれを繰り返す。即席モルヒネ。
 メールの受信音。畳に転がる携帯を拾う。達也からだ。
「興奮して眠れません。もう寝ちゃってます、よね」
 ここにも眠れない者が、一人。
「まだ起きてるわよ。なぜ興奮してるの?」
「はるなさんのこと考えると、なぜか興奮しちゃって…」
 まだ、高校生なのだ。若さがいとおしい。こんな会話をしていても、いやらしさを感じない。面倒臭いことは忘れて、思い切り空想のなかで遊びたい。かまってほしい。暇潰しでも冷やかしでもかまわない。
 パジャマのボタンをはずす。アカチャンホンポの特売で買ったブラ。自分に向けて、携帯のシャッターを切る。どんな反応が返ってくるだろう。こんなことする自分が信じられなかったけれど、気が付いたらそうしていた。仕上がりは、エロティックとは程遠いけれど。
「はるなさん、素敵です……どきどきしてきた、マジ。本当に眠れなくなりそう。家宝にします」
 家宝。やたらに笑いがこみ上げてくる。こんなよれよれブラの写真が家宝だなんて。
 もう一度、自分の送った写真を眺める。ブラも胸元の黒子も、顎のラインも首の皺も自分のはずなのに、それは大昔に撮った赤の他人の写真のよう。全てが作為的で安っぽい。携帯の液晶に、誰かがもぐりこませたウイルスメール。写真を削除し、携帯を畳む。
 遊びはここまで。
 座布団とタオルケットをそっと開ける。照明を浴びた途端、さっきよりももっと激しく、体中を痙攣させながら翔は泣き叫ぶ。顔は鼻水と涙でもうぐちゃぐちゃ。
 もう、完敗。
 シャツとパッドを持ち上げ、翔を抱く。翔は目を白黒させて、うんうん音を立てながら懸命に顎を動かす。こぼれる母乳でブラはびしゃびしゃに濡れていく。もう、替えがないかもしれない。これから、洗濯をすべきか否か私はぼんやり考える。

   *

 それから三日間、夫は家を空けた。携帯に連絡してもずっと留守電。生きているのかさえ分からない。
 食事も買い出しも面倒臭くて、氷水ばかり飲む。冷蔵庫の中からそのまま食べられるものだけを適当に選んで齧ったり、舐めたり。それでも、胃がぱんぱんに破裂するくらいの満腹感。
 おかげで頬がこけ、腕の脂肪が少し落ちたような気がする。お腹だけは駄目みたい。真夏なのに、厚い腹巻を巻きつけているよう。この腹巻は一年中脱げない。
 洗濯をせずに済ませるためには、洗濯物を出さなければいい。単純な理屈。動くから汗をかく。だから、あまり動かない。翔の世話と自分の排泄以外、必要最低限の行動に留める。それ以外の時間はほとんどキッチンの床に寝そべって、携帯片手にカーテンレールを眺めている。
 この場所、家の中で一番気持ちいい。少しひんやりしてて、適度に固くて。仰向けになって頭を押し付けていると、頭痛の薬にもなる。ゴミ箱が側にあるけれど、生モノを出さないので臭わない。

 炊飯器。冷蔵庫。調理用具。食器棚。テレビ。本棚。
 ここからだと、家中のものが大体見渡せる。ステンレスの流し台も目に涼しい。何より、水の近くにいるという安心感。だから、トイレもお風呂場も好き。でも、そこでは寝そべることができないから、やっぱりキッチンマットのあるシンク下がいい。
 それでも、ずっと一人でいると、時々無性に腹立たしくなって、大声を張り上げたくなることがある。実際に意味のない奇声を上げて、翔にあたることだってある。やり場のない苛立ち。やるせない痛み。
 私の体の中には小さな地雷が一杯埋まってる。どこに、いくつの地雷が埋まってるのか。破裂する数は日増しに増える。
 躊躇ない泣き声。際限なき欲望。翔の一喜一憂に振り回され、少しの猶予も休息も認めてもらえず、全身全霊、自らの体を捧ぐ。この家の主は夫でも私でもなく、子供。
 後悔。
 子供なんて産まなければ良かった。夫のいないこの三日間、そればかり考えていた。でもそれは、夫と結婚したことへの後悔かもしれない。
 ちょっとずれているだけなんだ。出産や失業を経験して、お互い戸惑っているんだ。そのうち時間が解決してくれる。キれたらお終い。
 そう思って、今までやってきたけれど、そろそろ危うい。これ以上は、自分が持ちそうもないみたい。
「これからはるなさんに会いたい。時間とれませんか?」
 午後四時。達也からのメール。
 翔を寝かしつけながら自分もうとうとまどろんでいた。彼の通っている高校は隣町の高校だった。会おうと思えば、三十分もかからない。
 あまりにも突然の話だけど、会いたい、と言う彼の言葉が、私の頭を強烈に駆け巡る。昨日メールで送られてきた彼の顔をもう一度見る。どこかで見た若い歌手のよう。色白で小さくて、可愛い顔。脈が少しずつ、速くなってきてるのが分かる。
 翔はぐっすり眠っている。唇が真っ赤。額に大きな青あざ。ティッシュの箱を投げつけた時のもの。あせもはもう諦めた。夏が過ぎれば治るという藪医者の言葉を、今は神の言葉として信じている。
 この子に意思があったなら、今の私に何て言うだろう。子育てを卒なくこなしている世の中の母親が羨ましい。私には無理。彼が生まれて三ヶ月。人生の中で、これほど長く感じた三ヶ月はない。そして、これからもずっとずっと、自分は翔とやっていかなければならない。もしかすると、夫より、長く。
「どこで待ち合わせする?」
 返事を待っている間、じっとしていられず、着てるものをみんな綺麗なものに取り替え、顔を洗い、歯を磨く。自分以外の強い力に体が突き動かされている感じ。髪を梳き、化粧ポーチを開け、眉を描く。手が震えてラインが歪む。一度、大きく深呼吸。

「5時半に立川駅北口のペデストリアンデッキ。ベンチに座ってるから。分からなかったら、メールして」
 口紅がうまく塗れず、何度もはみ出す。メイクをしながら、翔の顔を時々見る。よく眠ってる。こんなに安らかな顔、めったに見られない。
 私はタオルケットを腹までかけ直し、バッグの携帯を確認してから、そっと襖を閉め、靴を履く。

 間違ってる。うん、絶対間違ってる。でもとにかく、この湿っぽい家の中にいたくなかった。逃げ出したかった。私を待っている人がいる。私を今必要としている人がいる。だから、私はその人に会いにいく。
 翔は眠っている。そっとしておいてあげなくちゃ。この暑さで疲れてるだろうから、という言い訳。
 衿の広いブラウスのボタンをもう一つはずす。服にタンスの匂いが残っている。折り皺もついてるみたい。でも、気にしない。
 玄関で消臭スプレーをさっとひとかけしてから、もう一度家の様子を窺う。大丈夫。物音ゼロ。最近履いていない夫のサンダルがやる気無く隅に追いやられている。
 私も、夫も、いない家。
 扉に鍵を二つかけ、私はアパートの階段を静かに降りる。

   *

 達也の姿は直ぐに分かった。上は体にぴったりとしたブルーのTシャツに、下は穴の開いたジーンズ。写真で見ていた彼より大人っぽく見える。私の姿を見るなり、彼は煙草を踏み消して、軽い会釈をする。
「嘘かと思った」と達也。
「会ったら、おばさんでがっかりした?」
「いや、そんなことないです。写メ通り、綺麗な人」
 綺麗。お世辞と分かっていても、直接言われると嬉しいもの。旦那と交際していた時でさえそんなこと言われたことないし。
 女性のように細くて柔らかい手で、彼はさりげなく私の手を引く。旦那以外の男性の手。高校生と言ったって、もう立派な大人の男。手の平に酷い汗をかいているのが、自分でも分かる。
 導きに従って、表通りから路地を入り、また更に細い路地へと彼は黙って進む。
「ねえ、どこにいくの?」
「いや、すぐそこのホテル。楽しい思い出作らせて」
 覚悟してきたくせに、あんまり当たり前みたいに事が進んでいくのが、少し怖い。間もなく、達也に抱かれる。抱かれ方って、どうすればいいんだろう。旦那もこういうところで、ファンデの女を抱いているのだろうか。

 ホテルのラブソファに並んで座る。部屋の間接照明を見つめながら、私はこめかみを押す。割れそうに痛い。テーブルの上のビール。飲めもしないアルコールを無理やり口の中に流し込んだから。グラス、二杯。これまで、半分が最高なのに。
 部屋に入ってから、達也は更に無口になっている。爪を噛みながらしばらく私の話聞いていたけれど、気持ちはここにあらず、という感じ。私にばかりビールを進めて、自分はあまり飲んでいないみたい。
 そしてふと、何か思いついたようにポケットから白い錠剤を二つ出して私に薦める。「これからとても気持ちよくなる薬だから」と言って。
 バファリンなら喜んで飲むところだけど、気持よくなる薬なんて、別に必要ない。
「信用していないわけじゃないけど」と私はやんわり断る。二人の間の空気が、危険な匂いを孕む。
「大丈夫だから。マジで感度あがるから、ちょっとだけ」
 今までのメール交換では感じたことのない、強引で威圧的な、悪意に近いものすら感じる。さっきまでの彼と、今目の前にいる彼が、同じ人には思えない。どちらが本当のあなた? というよりそもそも、私がここにいること自体間違ってる?
「ごめん、あのね」
 最後まで言葉を待たず、彼は突然私の胸に力一杯顔を押し付けてくる。私は余りの不意打ちに体を仰け反らせ、胸から顔を離そうと両手で髪ごと掴むけれど、恐ろしいほどの力に阻まれ、達也は更に胸の谷間に密着してくる。
「ねえ、痛い、やめて」
「おっぱい飲みたい。おっぱい頂戴」
 偶然、抵抗する私の膝が達也のみぞおちに入ったらしく、達也は私にのしかかる体重を少し緩めて、「うっ」と呻いてその場にうずくまる。
 私はその隙に達也から離れ、ソファのバッグをひったくるようにしてサンダルを履く。「ごめん、帰る、ごめん」
 玄関扉が閉まるまで、背中の後ろから、「ばばあ」と叫ぶ声が何度も聞こえた。

 駅まで辿り着くと、それまで我慢してた涙を抑えることができなくなっていた。次から次へと、鼻水のようなしょっぱい涙が頬を伝う。
 早歩きというより、ほとんど走ってる。何度も歩道で躓きそうになりながら、私はアパートへ向かう線路沿いの坂道を、翔の名をうわごとのように呟きながら落ちるように下る。向かいの主人がすれ違いざまに何か話しかけてきたけれど、私は会釈する余裕もなく通り過ぎる。
 無性に、翔に会いたい。顔を見たい。あれほど嫌だった、翔なのに。好きなだけ、おっぱい、あげるからね。
 這うようにアパートの階段を上がり、鍵をひねる。汚れたスニーカーが天井を向いてばらばらに散らばってる。
 夫だ。
 和室の戸を開ける。大きな夫の背中。音楽を聴いてるように、頭が等間隔で揺れている。

「これ一本飲んだんだぜ」
 そう言って、空になった哺乳瓶を自慢げに私に見せる。夫の手の中に、血が透けるほど薄い瞼を閉じて、満足そうに眠る翔。彼の手の中では、モルモットくらいに小さく見える。まるで何事もなかったかのように、安らかに。
「結構面倒だな、ミルクって」と、夫は苦笑いをする。
 ミルクを作って飲ませた? 哺乳瓶、受け付けたんだ。
「帰ってきたら、お前はいないし翔は泣いてるし。哺乳瓶の場所、探すのに苦労したよ。おむつも替えておいた」
 丸めた紙おむつを私の方へ転がす。忘れていた涙が、また噎せるようにこみ上げてくる。夫は生き生きとしている。そんな顔、もう何年も見ていない。水分を吸って重くなったおむつを片手に、私はその場にしゃがみこむ。腰が抜けるように。
「なあ、俺を求めてくるんだぜ、こいつ。どうしたと思う? 俺のおっぱいに、口つけてくるんだよ。笑えるだろう?」
 言葉が出ない。嬉しいのか、悲しいのか、どちらの涙なのか。今、ここには私がいて、夫がいて、翔がいる。
「少し、酔ってる?」酔ってるのは実は私の方。そんなことどうでもいい。
「帰ってきたら、冷めたよ」
 無精髭の生えた顎に手を当てて夫は私を見る。
 痩せた。ただでさえ、細いのに。猫背で背も縮んじゃったみたい。
「抱いてもらってもいいかな」
 起こさないように、そっと翔を抱き直す。この腕の重み。首の感触。とても懐かしい。たった数時間なのに、十年も会っていなかったよう。口を半開きにして、わずかな酸素を規則正しく取り込んでいる。
 それに合わせて、はじけば飛ぶような小さな胸が、かすかに、しかし確実に上下運動を繰り返す。頭に自分の鼻をつけ、匂いを嗅ぐ。髪はシャワーを浴びたように濡れているけれど、赤ん坊の汗は全然匂わない。ごめんね、私、お酒臭いよね。最悪な母。
 夫は畳に横たわり、手をきつく握ったり開いたりしている。そして照明にぶら下がっている紐の方をじっと見ている。畳の縁に纏わりつく毛くずが気になる。そういえば、この部屋随分と掃除機をかけてない。よくみると、畳の目に沿って私と翔の髪の毛がたくさん落ちている。
 明日、面接があるんだ、と夫は言う。「全然違う職種だけどね。何でもやらないと、分からないからね」
 夫の声の感じから、今とても穏やかで前向きになってることが私には分かる。しばらく、そんな嬉しそうな夫の顔、見てなかったし。
「採用されるといいわね」
 今の私にはそれしか言えない。贅沢は言わない。家族が食べていければいい。少し寂しい時、側にいてくれる人がいればいい。少し嬉しい時、一緒に喜んでもらえる人がいればいい。それだけで十分。
 裏の林から、今日も蝉の声が姦しく響く。何匹集まったって、翔の泣き声には敵わないけれど。
 それから間もなく、夫は寝息を立てる。初めての育児体験、きっと疲れたのだろう。
 翔の寝顔と見比べながら、私はこれからのことについて考える。いろんなことがあるけれど、自分がどこにもいけないことはよく分かってる。もう逃げも隠れもしない。

 子供も妻も愛せない、酒飲みで女好きな放浪亭主。
 育児を投げ捨て、出会い系のいんちき高校生に体を奪われ損なった妻。
 最悪だけれど、めちゃくちゃだけれど、でも今、何かいい感じ。
 幸せへの、ささやかな潮目。

 電話。
 今この家で電話に出ることができるのは、私だけ。
 やれやれ。
 今のこの潮目を邪魔するものは、どんなものでも許せない。私はタオルケットを電話に被せる。タオルケットは体にかけるものじゃなくて、音を消すためのもの。
 それから、襖を閉めて、再び床に横になる。胸が張っているけれど、搾乳する気力はない。眠ることに集中する。寝る姿勢を変えてみる。うまい姿勢が見つからない。
 電話の音、まだかすかに聞こえる。きっと、メタボ男に違いない。もうこの時間帯の電話に出ることは一切やめよう。
 いつもと違う私。幸せへの潮目。
 マイホーム、もし夫の仕事がうまくいくようなら、考えてみてもいい。メタボ男が薦めるマンションではない、他のどこかであるなら。(了)


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