「あっという間に異世界」~超短編小説の強み

高橋です。
「犬猿」ならぬ「犬熱」の関係だった「犬」と完全に和解し、遂に、思い切り抱きしめ合えた喜びにひたれたと涙していたら、実に精巧にできた夢だったと知った朝に、この文章をしたためています。皆様、ごきげんよう。

9月6日の日経夕刊に、「超短編小説」が盛り上がりを見せている、という記事を見つけました。

■超短編小説「文学の入り口」

超短編小説の日経記事
(写真:日本経済新聞 9月6日夕刊)

「ショートショート」の賞が新設されたり、芥川賞作家が新聞に掌編小説を掲載したり、それに刺激されて、他のプロ作家も掌編小説集を出版したり、という内容でした。

自分がベースにしているジャンルや世界を、新聞などのメディアで取り上げてもらえるのは、何だか嬉しい気分になります。日経の夕刊を見ている人がどれだけいるのか、ということは別にして。(あくまでも個人的なイメージですが、日経の購読者は若い人というより中高年からシニア層、しかも夕刊となると、家庭にいる「奥様」の目に触れる機会が一番多いんじゃないかなと。自分の小説の読者層と比較的被っている気もして、更に喜ばしい気分になります)

ちなみに、googleトレンドで「ショートショート」というキーワードを調べてみると、こんな感じです。

ショートショートこの5年間で、右方上がりの軌道です。皆の関心が高まっているのは確かなようです。
(「超短編小説」というワードだと、まだ検索数不足で出てきません。「短編小説」は、横ばいでした)

日経記事の中では、松田青子氏という作家の出した50編の掌編小説の中には、たった1行のものがあったり、中には本文のない作品もある、とのことでした。え、「本文のない小説」なんてものが存在しうるのかどうか記事からは想像できませんが、とにもかくにも「短い小説」ですから、一陣の風の如く過ぎ去っていく、あるいは、突発的事故のような、海外では「Sudden Fiction」という呼び方もあるようですが、書き手側からすると、思いついたイメージをかたっぱしから文章に起こし、「実験」することが可能です。

新しいプロット、斬新な文体、工夫、趣向、とにかくメモに書き留めるように小説に起こし、その効果を検証する。短編小説は、長編小説ではできないことを全て出来る(何でもあり)と考えていいと思います。そこから、もしかすると、長編小説に移行するもの(長編小説にした方が、その世界観を更に膨らませ、いい物語に展開できるもの)のシーズを見つけることができるかもしれません。村上春樹氏も、良くそういうことをしていますよね。先に短編で書いたモチーフが、長編のプロットに化けていく。この感覚は自分も良く分かります。一応短編で完結させたけれども、もっと膨らませられるのではないか、まだまだ続きが書けるのではないか、と。

とまれ、この副題になっている「あっという間に異世界」というコピーは、自分も良く使わせてもらってます。これが正に超短編の魅力です。前回のブログでも書きましたが、僕が何故「超短編小説」ばかりを書くようになったのか、という動機にもなっています。

■「あっという間に異世界」~超短編小説の強み

携帯やスマホがここまで普及した現代、余暇の過ごし方の選択肢は飛躍的に広がりました。その中で、一定の時間と環境を要する「小説を読む」という行為が、相対的に少なくなるのは当然で、これは小説に限った話ではありません。その中で、いかに「小説を読む楽しさ」を味わい、非日常世界にはらはらどきどきしたり、不思議な感覚を覚えたり、心を癒したりすることができるかを考えると、この「超短編小説」や「ショートショート」というスタイルは、正に現代にぴったりなんじゃないかなと。

何がいいって、ちょっとした時間の隙間に「スマホで読める」というのがいい。これなら、連れ合いとの、ちょっとしたスーパーの買い物途中、駐車場で待ってる間に読み切れます。通勤ラッシュの中でも、会社のトイレの中でも。1編を読了するまで、わずか数分ですから。

「文学の入り口」なのか、出口なのか、あるいは「文学真っ只中」なのかは分かりませんが、元来「小説」というくらいですから、「小さく説く」ものであって、「大きく説く」訳ではない。ということは、この超短編なりショートショートなりというスタイルは、正に「小説」の王道なのではないかとさえ思っています。

(「文学」という言葉は、個人的に嫌悪感を持っているので、最近あまり使わないようにしています。「文学」という言葉の持つイメージ、あるいは「文学」というジャンルに囲い込んでしまうことは、特に僕が書きたいと思っている「超短編小説」や「ポケットノベル」とその想定される読者層にあっては、実に可能性を狭めてしまう気がするのです)

「短いけれど、あっという間に異世界へ」というこの強みは、実は他の業界や分野にも展開できる可能性があると思っています。以前書いた「サッポロビール」(「ラベルの記憶」「壁画の娘~銀座ライオンの恋」)や「タニタ」(「愛の重さ」)などの企業のイメージアップを想定した小説や、それこそ、これまで小説とはあまり縁のなかった(ボリューム的に掲載不可能だった)趣味の雑誌やらカタログやらカレンダーやらパンフレットなどの印刷メディア(キャラメルの小箱で小説なんてものもあります(確か森永のミルクキャラメルの小箱に朝井リョウ氏かが書いてたような記憶が・・・))と、応用が広がります。

いずれにしても、こういう記事を見ると、満更僕だけが独りよがりで「超短編小説っていいよね」って言ってる訳ではないんだなと、仲間が増えたような、ちょっと頼もしい気がしました。

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