初めて君を抱くまでに、僕の好きだったもの。
僕が映りこんだ麗しき瞳。
黒く長いつけ睫毛。
艶やかな厚い唇。
時々口の端から覗く八重歯。
色白で華奢な二の腕。
小さいけれど、つんとせり出した胸。
タイトなスキニージーンズ。
黒革のロングブーツ。
ヴィトンのショルダー。
世田谷のワンルーム。
家族の写真。
控えめな丸文字。
相槌を打つときの表情。
そしてちょっぴり、やきもちな性格。
しかし初めて君を抱いた後では、それらのほとんどは、
特別魅力的なものではなくなっている。
二度目に君を抱いた後では、そのうちのいくつかに嫌悪さえ覚える。
三度目に君を抱いた後では、君の何もかもが嫌になっている。
そして僕はしばらく君と距離を置く。
一月、半年、あるいは、一年。
けれども僕はある日、無性に君に会いたくなる。
一度嫌いになったはずのものに、また一つずつ「好き」のスイッチが入る。
それは真夜中の雷鳴のように、唐突で衝動的なものだ。
空白は二人の距離を縮めるための必要悪であったかのように、
君は自分勝手で我儘な僕を、しぶしぶ受け入れてくれる。
そして、再び僕は君を抱く。
今度は、抱いた後でも、君を嫌いにはならない。
三度抱いた時と違って、君の好きなところを見つけ出そうとさえしている。
君を抱いた数は、君に生涯を捧げる「約束手形」の枚数に等しい。
僕は誓う。
二度と君を離さない。
二度と君を試さない。
二度と君を裏切らない、と。
それでも、またいつか倦怠を覚えるのが、「恋愛」というもの。(了)