いい小説を書くために~その⑥すきま狙い

⑥すきま狙い

「いい小説」云々とは多少主旨がずれるかもしれませんが、書かれた「小説」が「価格」を持って市場に流通し、売れる、売れないという「結果」が出てしまうということから、今回は考えてみます。

いくら自分の書きたいものを書いて満足しても、それを誰かが「認めて」くれないことには「いい小説」もへったくれもありません。しかも、それが「販売」されていて、一般のリアルな書物よろしく、「お品代」をいただく、ということになっていると、さらに読み手(買い手)の目は厳しくなりますし、それは当然のことです。

「500円」の小説を買ったが、自分の期待しているものとは全く違った、全然面白くなかった、なんてことになりますと、時間が無駄だった、と思うだけではなく、もう30円足して吉野家の牛丼の「特盛」を食べた方がよっぽど良かった、なんてことにもなります。

「価格」という貨幣の交換原理に則る以上、価格相応の「価値」と「サービス」を「小説」は提供しなくてはいけない。「安くていいもの」だったり「高くても他にはない満足感を得られるもの」だったり、通常の有形無形の消費財と同等の価値基準のもとで判定されることになります。
そこで必要になってくるのは、他者との「差別化」です。

こういう話をし始めますと、まるでマーケティングの話になってくるわけですが、しかし「文学」というジャンルが売れなくなった原因の一つには、「多様な消費者ニーズに対応する商品のマーチャンダイジングが本当にきちんとなされてきたのかどうか」という問題が一つあるのではないかと思っているのです。

読者の求めている「文学」あるいは「小説」というものを丁寧にリサーチし、それにふさわしいものを製品化し、プロデュースしていく「マーケットイン」の発想ではなく、過去の有名作家や出版社側の都合をただ一方的に市場に送り込んでいく前近代的な「プロダクトアウト」の発想ではなかったかと。

そして今、そんな読者ニーズの隙間を埋めているのが、WEBで発信されている小説群(いわゆるアマチュアの書く小説)ではないのかな、という気がしています。

ということで僕のような知名度もなく、パブリシティの弱い素人小説家が意識すべきは、いかにその「隙間」に存在する読者に向けた小説が書けるか、ということ。

つまり既に流通している「有名作家」の書くようなものではなく、他の誰でもない、その書き手にしか書けない事業領域(小説の場合は「作品ドメイン」「モチーフドメイン」とでもいうのでしょうか)を持つこと。

あくまでも「すきま狙い」なので、いつまでも「メジャー」にはなり得ないのかもしれませんが、いわゆる一般的に流通している出版物では物足りない(読みたいものがない)読者の根強い固定ファンを獲得できる可能性、余地は十分あると思っていますし、既にそうした固定ファンを獲得しているアマチュアもたくさんいます。これからの「いい小説」とは、そうした「対読者」と密度濃く繋がっている作家の書く小説の中から埋まれてくる気がしてなりません。

もちろん、有象無象のWEBサイト、WEB小説の中で、どうやってぴったり好みとマッチする小説を探すことが出来るか、探してもらえるのか、というネットならではの「悩み」も残されるわけですが。

それには、ふとしたきっかけからWEBで出会い、貴重な時間を割いて自著を読んでいただいた方一人一人に感謝し、大切にしていく、という実に「当たり前」で「地道」で「基本的なこと」をいかに実践していけるか、ということに尽きる気がしています。

以上、これまで6回にわたって「いい小説」像を僕なりに書いてきた訳ですが、これは永遠のテーマでもあると思ってますので、また機会があれば是非考えていきたいと思います。

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