「マアクンとコウタン」

今度の短編集に収めてある小品、「マアクンとコウタン」。
とある駅の線路に落ちていたクマのぬいぐるみから話が展開していきますが、このイントロ部分は、実際の体験がきっかけになっています。僕の短編小説は、実際に体験した強烈な印象、光景、そうしたものから物語を妄想していくパターンが多く、今回のこの小説は正にそう。

通勤で使う駅に、クマのぬいぐるみが僕を見つめていました。
きっと、その時の僕は連日残業が続いていて、本当に弱っていた時でした。
あくる日も、その翌日も、クマは僕を見つめていました。
誰が拾い上げるのでもなく、クマのぬいぐるみはいつでもそこにありました。

その顔が、何とも愛くるしく、僕は落とし主のことを思いました。
一体どんな人なのだろう、どうしてこんなところに落ちてしまったのだろう、どうしてこんなうまい具合に目線がこちらに向くようにとどまっているのだろう、そう考えていたら、一つの短編小説を思いつき、書き始めたのがきっかけでした。

これまでの小説とはちょっと違ったトーン、印象に仕上がっていると思っています。

是非お楽しみに。

超短編小説『マアクンとコウタン』(書き出し)
死にたい、そう思った。車内の人波に流されるまま目的の駅で降りると、視界が突然狭くなり、いよいよ立っていられずその場にうずくまった。朝の通勤ラッシュでホームはごった返していて、その場から動けない人間などただの障害物でしかなかった。多くの通勤通学客が私の背中にぶつかり、鞄を蹴飛ばし、悪意すら感じる一瞥だけを残して、無言で歩き去った。

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