「愛玉」という小説。

新しい短編集の最初の小説、また表題でもある「愛玉」という小説について。
所謂、愛の「卵」のような、「素」のような不思議な商品が百均で売られている、という話。
これは全くのフラッシュアイデアでした。発想の瞬間はよく覚えてませんが、とても穏やかで、優しい時間が流れていたんだと思います。

「愛」を金で買う、という発想。純粋な愛情を一途に夫に捧げ暮らしている、美しい一般女性に対し、偶然出会った大富豪が金にものを言わせて誘惑しようとする話は、昔何かの映画で見ました。金と愛というテーマは、男女の恋愛において永遠のテーマである気がします。

男女にとって、愛は大切。しかし、結婚生活を維持するためには金がかかる。愛情だけでは食えない。金を得る為にあくせく働いたり、あるいは楽をして金を得ようとしたり、悪賢いことを考えたり。そのために何かを犠牲にしている。家族といる時間。夫婦や親子としての愛情。自身の身体。健康。永遠の愛を誓って結婚した筈なのに、一生愛するつもりで結婚した筈なのに、いつしか生活することに追われ、日々生活することが目的化する現実。

一体何の為に今こうして暮らしているのか、生きているのか、夫婦や家族でいるのか、年を重ねるごとに曖昧になり、輪郭はぼやけ、悩みも増える。昔、結婚した頃には確かに存在した筈のあの愛とやらは、一体何処に消えてなくなってしまったのだろう。いや、本当に消えたのかどうか。潜在化してしまっただけなのかもしれない。

そんな「愛」に関する雑駁な断片をつらつら妄想していたら、こんな小説になりました。荒唐無稽で捕えどころのない小説に見えるかもしれないけれど、愛なんて、元来荒唐無稽なものなのかもしれませんよね。

【超短編小説「愛玉」より(一部抜粋)】
愛玉と目が合った気がした。じっと僕を見つめているようだった。僕は手を伸ばした。愛玉は僕の手に沿うようにすっと落ちて、僕の肩でぱちんとはじけた。はじけた後の愛玉は三つに分かれて、換気扇やらキッチンラックやらの周りに揺らいでいた。玄関のチャイムが鳴った。娘だ。いいタイミングじゃないか。もうすぐで茹で上がる。蓋をあけるとお粥もいい塩梅だった。

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