「痒い」小説。

変な痒みに襲われる経験てないですか?

掻いても掻いてもちゃんと掻けてない、というような。虫刺されとかの痒みなら、ぷっくりした赤い膨らみを掻いていれば痒みは鎮まるのかもしれないけれど、もっと奥、痒みの実体がどこにあるのかが分からないような、捕まえられないようなところから発している痒み。

内臓系の病気や何かでありそうだけれど、時々そんなものに出くわすと、とても苛々して、不快な気持ちになる。いくら掻いても満足感は得られず、ただ皮膚の表面を傷つけるだけで。それを表現しようと思ったらどうなるのかな、と掻いてみた、否、書いてみた小説が、「奇痒譚」という短編小説。

「痒み」にスポットを当てた小説なんて、地味だし暗いし、読んでいて気分のいいものじゃないので、そんなものを題材に書く人なんていないと思う。僕の知る限り、太宰治くらいである(短編「皮膚と心」)。身体や病気に関する悩み、コンプレックスを扱う小説は多々あれど、「痒み」そのものを取り上げた小説は他に読んだことがない(他にあれば興味があるので教えて下さい!)。

恐る恐る筆を進めてみたけれど、案の定、書いている最中にも、身体のあちこちが痒くなってきて仕方なく、小説でも書いたけれど、もうパソコンに向かってキーボードを叩くことすら難しいという経験をした。書いてるだけでこれだけ痒くなるんだから、読む人もきっと痒くなるんだと思う。怖い物見たさで痒くなりたい人は(そんな奇特な人はきっと僕だけなのかも知れないが)、是非ご一読を。

【超短編小説「奇痒譚」(書き出し)】
むず虫。その奇妙な痒みを感じるようになりましてから、いつしか私はそうした名で呼ぶようになっておりました。みみずやダニが這いずり回っているとも、ピンや針でなぞられているとも違う、またおたまじゃくしの卵とか、蜜に群がる赤蟻の大群とか、半分に割った石榴や山桃の外皮を目にした時に感じる視覚的な痒みでもない、そうした有機物や無機物、大きさ、密度、動きとは無関係な、痒みの本質そのものでした。

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