村上春樹氏の名訳で読むカーヴァー。

『英雄を謳うまい』(レイモンド・カーヴァー著/村上春樹訳/中央公論新社)読了。

初めて読む心意気で買ったものの、実は昔しっかり読んでいたらしく、本棚に同じ本が“飾ってあった”というオチがつきましたが、読んだ記憶が残ってないからまた買っちゃったというわけで、改めて読み直したということで(笑)

それにしても、カーヴァーの文章って何度読んでもすうっと頭に入って来るし、事象に対して実に正直に屈曲なく文章を書くスタイルが本当に好感が持てます。
中でも初期の短編が良かった。『髪の毛』とか。たった6ページくらいの短い話だが、歯の間に「髪の毛」が挟まった感じを、ただずっとひきずってイライラしてるという小説です。

どうですか? 普通、そんなことだけを小説にしますか?

言葉にするとなんのこっちゃっという感じですが、本人にしたら、それは「幸福に生きる」ことを否定するくらい大問題な「イライラ」に聞こえてくるのでしょう。
日常のささいな“悩み”を、僕らはいつでもひきずって生きているわけですから。実生活でも。その後の小説のテーマと照らし合わせても、とてもカーヴァーらしい小説だと思いました。このざらざらした、少々荒っぽくほっぽりだされる感じ、何とも言えません。僕はちょっとMなのかも。

加えて、村上氏の訳が素晴らしい。
まるで自分の小説を書くように、翻訳している様です。
作者の温もりも、小説に対する誠実な姿勢も、作者の心の奥底まで入り込んで、注意深く言葉を選びながら伝えていこうとするポリシーがしっかり伝わって来ます。

海外文学は、同じ小説を読んでいても、翻訳者次第で180度印象変わったりします。
言葉使いやリズム。僕は、村上氏の翻訳した「レイモンド・カーヴァー」が何よりも大好きです。

カーヴァーや村上氏には遥か遠く及ばないけれど、少しでも近づけたらいいな、とこれからも日々精進していきます。

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