「主張なきロック」

「主張なきロック」をやろうという話になった。
大学時代のバンド活動。

昔のロックは、人種差別、国家体制への批判、戦争反対、恋愛の悩み、そんなものがテーマだった。若さゆえのエネルギーをロックという音楽に乗せ、力任せにぶつけた。

90年代。僕らの時代は抵抗すべきものがなかった。国にも政治にも差別にも女にもこぶしを振り上げるほどの不満はなかった。みんなそこそこの生きづらさを感じながらも、それは致命的なほど落ちてはいなかった。

そこで、友人たちと、「何の主張もしないロック」をやるにはどうしたらいいのか、という話になった。純粋に音だけを追求するロック。
激しくひずみまくったギターサウンド。
ぶりぶりとかき鳴らすベース。
皮が破れるくらいはたきまくるドラム。
そして、歌詞のない、ヴォーカルのシャウト。

うむ、「主張なきロック」一丁あがり。客なんていらねーよ。やってる人間が満足すりゃそれでいいじゃん。

「なあ」とギター担当の友人。「主張なきロック、だよな?」
「もちろん」と僕。
「でもさ、『主張なきロック』っていいながら『主張がない』ことを主張してるよな?」
「してる」
「詭弁?」
「詭弁じゃなさそうだよ」
「どうする?」
「どうしよう」
「もう少し、真剣にロックやらないか?」
「うん、やる」

「主張なきロック」はわずか一曲、数回の音合わせで終了した。
今、当時スタジオで録音したテープを探しているのだが、それらしい曲はどこにもない。
「主張なきロック」は確かに実在したはずだが、録音すらされぬまま、記憶の奥に消えていった。

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