せめて十分、いや、五分でいいから、僕に時間をください。
僕は不器用な男なので、人よりも少しだけ、頭を切り替えるのに時間がかかるのです。
決して、君たちの話を聞きたくない、なんてことじゃないんです。
僕に話をしたくてしょうがないこと、それはとても良く分かります。君たちにだって、今日一日、いいことも悪いことも、僕と同じくらいたくさんあったことでしょう。
君たちの身に起こったことなら、僕だって聞きたいのは山々なんです。
でも、でもね、
まだ頭の中が仕事モードになっているときに、やっとやっと、辛い通勤電車から解放され、蒸し暑い夜道、汗だくだくになって、やっとの思いで玄関を開けた途端、
あーでもない、こーでもないと、君たちに取り囲まれ、一斉にまくしたてられたら、さすがの僕だって、参ってしまいます。
ほっとできる唯一の場所なはずなのに、ほっとできなくなってしまいます。
今は暑くて汗をかくから、さらにあと五分だけ僕にもらえれば、その間に僕はシャワーを浴びて、身も心もすっきりさせて、その間に、頭の中も家族モードに切り替えて、気持ちよく君たちの話を聞く準備を整えるでしょう。嫌な顔せず、まっすぐ君たちに向き合えるでしょう。
だから、だから、たった少しの時間でいいんです。
少しだけ、僕を待っていてください。僕の不器用さを、しょうがないなあ、と鼻で笑ってテレビでも見ていてください。
それだけで、きっと、この家族は、今よりもずっと、うまくいくはずです。