白紙の前では、僕は天才になれる。
何も書かれていないキャンバスは、あらゆる可能性に満ちている。
凡そ人の想像しうる限りの物語、例えばギリシャ神話や聖書を超えるものすら書けるかもしれない。
しかし、勢い勇んで書き始めるや、僕は一行ごとに落胆し、失望する。
可能性はみるみる縮んでいって、やがて何の特徴も面白みもない凡庸な文章となる。
僕は後悔する。
それまでに費やした膨大な時間と気力。
こんなことなら、最初から書かなければ良かったと。
そしてまたしばらくして、僕は再び白いキャンバスの前に立つ。
何度やってみても結果は同じ。
そして僕は知ることになる。
白紙の前でさえ、僕は天才にはなれない、ということを。
小説を書くことは、まるで恋愛することとよく似ている。