二百円

 盛夏のある日、小学生だった僕は塾に向かうため私鉄の駅に向かって歩いていた。大半の小学生がそうであるように、僕の喉も四六時中渇いていた。自宅と塾の丁度中間地点、シャッターが開いているのを見たことがない薄汚れたその商店の自...

通夜ぶるまい

 取り立てて何の特徴もないことが、却ってその方の特徴を引き立たせるということもあるのだ、と私はその時初めて気付かされました。いや、「全てが平均値である」ということではありません。身長は一五〇センチと少しくらいしかありませ...

深夜のデッドヒート

 国道の追い越し車線を流していると、二つの強烈なハロゲンライトがみるみる大きくなって、ぴたりと背後に密着した。それは追突するかと思うくらいの猛烈なスピードだった。一日の仕事の疲れと、快適な車内の空調で少し居眠りしかけてい...

お前が死んだ時、父さんは

お前が死んだ時、父さんはある女とベッドで寝ていた。女といっても、お前の大好きだった母さんではない。お前が会ったこともない人だ。そして父さんも、ネットを通じて知り合ったその人と会ったのは、その日が初めてだった。最初に母さん...

浮気

浮気

「違和感、ていうのかな、その夜、あの人いつも以上に疲れた顔をしてたの。まだ起きてたんだ、なんてちょっと残念そうな感じでお弁当箱を私に手渡した時の表情は、目の下に隈ができてて、まるで視点が定まっていなかった 雨の中傘もささ...

視座

 そこが私の「指定席」だった。 先頭車両の二番目の扉。向かって右側の長椅子の端っこ。 始発駅であり、その席に座ることは容易だった。会社までの小一時間、私はそのほとんどを寝て過ごすか、読書をするか、あるいは向かいに座る男を...