カテゴリー: 掌編小説
不倫の末路にある、あまねく倦怠的な
ソファの肘掛けはひび割れていた。今までここで何組の男女が粘液を交わし合ったかを思うと、せめて下着くらいはきちんと着るべきだったと後悔した。「次はいつ会えそう?」 口紅を塗る前の最後の口付けを交わした後で、女は聞いた。「...
あるクリーニング屋の日常
「以上三点で宜しかったですか」と、受付の子は言った。その時の俺は、実に酷い身なりをしていた。寝癖のついた髪、未処理の髭、伸びたロンT、ゴムの緩んだスエットパンツ。いかにも、休日の朝妻に叩き起こされ、クリーニング店に使いに...
若きセールスマンの安息
今月のノルマまで、もう一息のところまできていた。この仕事が合う合わないというより、当座の生活費を稼ぐ為には必死だった。「東京都水道局の方から来ました。今無料で水質検査を行っておりまして」 白髪を油で固めたスウェット姿の...
歩行障害における夫婦間共時性に関する考察
それは、会社近くのスクランブル交差点で起きた突然の出来事でした。何の前触れもなしに脚が動かなくなってしまったのです。もう幾度となく行き来している通勤経路ですし、少なくとも自宅から電車に乗り、その交差点までは問題なく歩い...
ティーグラウンドより愛をこめて
砲台になったティーグラウンドの遥か彼方に、最終ゴールの旗が見える。下ろしたてのボールにドライバーヘッドを合わせ、肩幅よりやや広めに足を開く。雲の継ぎ目から陽は零れ、名も知らぬ野鳥の囀りが無駄な力みを解きほぐす。男の一挙...